MEDIA メディア掲載・対談
国土交通省 東北技術事務所 技術情報誌フォルモス『FORMOSUS』 vo.23 『微生物で汚水浄化 簡易水洗循環式トイレの開発』
巻頭会談 東北の人と技術 (株)クラフト
微生物の働きを利用して汚物を分解し、外部に汚水を排出しない循環型のトイレを開発した(株)クラフトを訪問しました。
トイレ製作のきっかけ
菅野 | まずはじめにトイレに取り組むこととなったきっかけについて教えて下さい。 |
武田 | 当社は大正3年にコンクリート工業所として創業したのですが、もともとはコンクリート加工の会社で、側溝などのコンクリート二次製品を作っていました。しかし、コスト的に競争力が強くないため、二次製品からの脱却を狙って擬木製品も作っていたのですが、そのなかで「擬木でトイレは作れないか」という話をいただいたんです。いわゆる木造の様なトイレということです。それがトイレに取り組むきっかけでした。 当時は、上屋をつくるのが仕事で、水洗にするとか、くみ取りにするなどの部分には関知せず、次々に新しいタイプのトイレを作っていましたが、実際少しずつ当社の商品があちこちに建ち始めると、そのトイレの評判があちこちから聞こえてくるのです。それが「汚かった」「臭かった」という悪い評判だとしても「当社は上屋だけです」と言っても他から見れば「あれはクラフトが建てたトイレ」ということになってしまいますから、それなら一体型のトイレを作ろうということになったんです。 |
日本初の無電力簡易水洗循環トイレの開発
菅野 | 汚物を流さず分解浄化する循環型のトイレを開発したそうですが・・・。 |
武田 | 平成11年に大朝日岳山頂避難小屋に便器が水洗3器、冬場用の非水洗1器のトイレを設置しました。水洗に使用する1回あたりの洗浄水量は便器を洗う程度の100~200ccで、トイレットペーパーなど固形物の完全分別収集で微生物の分解能力を維持するようにしています。 微生物により汚物を浄化し、人力によるポンプアップで繰り返し洗浄水として使用するもの洗浄水として使用するもので、タイプとしてはくみ取りと水洗との中間といった感じの簡易式水洗循環式トイレシステムです。 基本的な原理は、自然流下式の槽を設けて、微生物による分解処理を三段階施して汚物を浄化します。まず、一次、二次処理で微生物の働きを利用して汚物を液体に分解し、接触消化槽で汚水中の浮遊物質を取り除きます。三次処理では微生物が生息する土壌の中のパイプに付いたトレンチで汚水を土壌に通し、地下に浸透する過程でゆっくりと有機物を分解します。分解された水は地下の貯水槽に貯め、トイレ内の足踏みポンプで水を汲み上げて循環再利用するという仕組みです。 構造は、まず80cmほどの深さの穴に遮水シートを張り、その上にパイプを三段に重ね、また遮水シートをかぶせたものが地下貯水槽となります。その上に土をかぶせ、ゼオライトを敷き、また土をかけ、便槽からのパイプ引いて土をかぶせるというものです。 このパイプは地表から20~30cmの深さが最適なんです。土壌内のバクテリアは好気性のバクテリアですので、これ以上深いと空気が行きづらくなるんです。 一年間の使用結果でこのシステムの有効性、実用性が実証されました。電気をまったく使わない簡易水洗循環敷きのトイレは日本で初めてで、汚水を自然界に放出せず、環境に配慮していることが評価され、日本トイレ協会の「グッドトイレ10賞」にも選定されました。 |
すべての生物と共生、共存できること
菅野 | トイレに対する思い、今後の展望についてお聞かせ下さい。 |
武田 | 当社では、各地に景観、環境施設を納めるという立場から、保全に配慮したものづくりを進めてきました。その中でも、とりわけトイレは環境に与える影響が大きいと考えています。そうした観点で公共トイレに力を入れるようになったのは15年ほど前のことでした。当時は、人間にとっての機能性や快適性を重視したものづくりをしていましたが、近年は自然景観に配慮した共生型の施設づくりを指標としています。 現在は水洗トイレが万能と思われていますが、太陽光、風力、雨水、沢水といった自然エネルギーを動力として利用することや、汚水を浄化し再利用するシステムを併用すること、汚れたものを自然界に排水せず、自己完結型システムにすることなどに取り組んでいます。 私たちは地方の小さな一企業ですが、21世紀に与えられた課題は、地球上のすべての生物と共生、共存できることだと思っています。その中で単なる利益だけを追求するのではなく、社会的意義のある仕事を取り組みたいと思っていますので、出来ることから始めたいと思います。 |
菅野 | 本日はありがとうございました。 |